第2節 過去生の記憶

2.よみがえった過去生

 (2)過去生記憶の妥当性

 ジョエル・L・ホイットン博士(トロント大学医学部精神科主任教授)は、ハロルドという被験者が、退行催眠によって過去にヴァイキングであった人生を想い出しながら口にした、当時の言葉を書き留めておいた。ハロルドは、自分が思いだした22の語句について、どれも理解できなかった。そこで、専門家に鑑定を依頼してみたところ、アイスランド語とノルウェー語に詳しい言語学の権威が、それらのうち10の語句について、ヴァイキングが当時使用した言語で現代アイスランド語の先駆となった古い北欧語であることを確認した。他の語句については、ロシア語、セルビア語、スラヴ語から派生したものであり、ほとんどはヴァイキングが使用した海に関する語句であることが確認された。

 これらの語句はすでに現存しておらず、一般人であるハロルドが今回の人生で知り得たはずもないため、退行催眠によって導き出された過去生の信憑性を証明する強力な証拠となる。退行催眠で過去生を思い出しながら、今回の人生では知り得ない言語を喋り始める被験者は数多いが、その言葉は世界中の広範囲に広がっており、古代中国語やジャングルで使われる方言までもが含まれているという。

 なお、イアン・スティーブンソン博士(ヴァージニア大学教授)は、退行催眠という方法を用いないで過去生の存在を証明しようと努力している。彼は、今回の人生では知り得ないはずの外国語(真性異言)を話す奇妙な子供たちの存在に着目し、世界中から集めた事例を極めて詳細に調査分析した後、少なくとも3つの事例が十分に信頼できる科学的事例であることを検証して、1994年に次のように結論づけた。

 「通常の手段で習ったことのない、母国語以外の言葉を話す人たちは、実際の練習によって、どこか別の場所でその言葉を習ったに違いない。それは、前世の時代なのではないだろうか。それゆえ、信憑性のある応答型真性異言の事例は、人間が死後にも生存を続けることを裏づける最有力の証拠の一端になると、私は信じている。」

 この結論に基づき、スティーブンソン博士は、生まれ変わりの概念について、次のような仮説を立てている。

 「宇宙には、物質的世界と心理的(あるいは精神的)世界の、少なくとも2つがある。この2つの世界は、相互に影響を及ぼし合う。我々がこの世にいる場合は、肉体と結びついているために、肉体なしには不可能な経験はさせてくれるであろうが、心の働きは制約を受ける。死んだ後には、肉体の制約から解き放たれるので、心理的(精神的)世界のみで暮らすことになるであろう。そして、その世界でしばらく生活した後、その人たちの一部あるいは全員が、新しい肉体と結びつくのではないだろうか。それを指して我々は、生まれ変わったと称するのである。」

 また、サトワント・パスリチャ博士(インド国立精神衛生神経科学研究所助教授)も、過去生の記憶を持ち「前の両親を覚えている」と主張する人物の事例を45例も収集し、綿密な科学的調査分析を行った。その結果、生まれ変わりを自覚する人物は、自らが記憶するという過去生について具体的な事柄を語っており、45例中38例では、前世(一つ前の過去生)における名前を突き止めることができ、生存する関係者によって、その発言内容の正確さが確認された。5名の人物は、前世でも現世と同じ家族の一員であったことを記憶しており、前世の人物の直系の子孫であると主張した。残る40例では、双方の家族は地理的にも家系的にもかなり隔絶されていた。

 ちなみに、前世を記憶する人物のほとんどが、食べ物、衣服、人物、遊びなどに関する好き嫌いや、刃物、井戸、銃などに対する恐怖症など、異常な行動的特徴を持っていたという。その行動は、今回の人生における家族から見ると奇妙な行動であるが、前世に関する本人の発言とは一致しており、大半は、前世において死亡したときの状況に関していた。例えば、刃物に対する恐怖感を抱いている場合は、前世で刃物によって殺されていたことが判明した。前世で死んでから今回生まれ変わるまでの期間は、平均で14.5か月であったが、最短で1日、最長では224か月と、人によってかなりの差がみられた。

 一方で、スタニスラフ・グロフ博士(国際トランスパーソナル学会初代会長)は、退行催眠ではなく、薬物の投与によって被験者をトランス状態へと導き、過去生の記憶を思い出させることに成功した。その記憶を検証した結果、彼は次のように指摘する。

 「生まれ変わりについては、観察可能な事実がある。例えば、我々は、非日常的な意識状態(トランス状態)で、鮮明な過去生の体験が自然に起こることを知っている。こうした体験は、客観的に確かめることができる、我々自身の過去生についての正確な情報を含んでいることが多い。多くの情緒障害は、現在の人生よりも、むしろ過去生の体験にその根を持っており、それらの障害に起因する症状は、その根底にある過去生の体験を再体験すると、消滅するか軽減されるのである。」

 以上のように、過去生の記憶の正当性については、退行催眠による研究結果からのみならず、過去生の記憶を持つ子供たちの調査結果や、特殊な薬物の投与によるトランスパーソナル効果の実験結果からも裏づけられている。

 ここでは詳しく引用しないが、被験者たちが語る過去生の内容は、かつてその時代に生きていたことを確証させるに十分なほど、具体性と主体性に富んだものである。しかも、ただ過去の人生をいくつも思い出すだけでなく、肉体を持ってこの物質世界に生まれていた人生と人生の間に、いわば「魂」の状態として経験した不思議な出来事を、ありありと思い出す被験者も少なくない。

 それでは、その驚くべき証言内容を、次に整理してみよう。

 


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