第3節 「生まれ変わり」の仕組み

 本節では、ジョエル・L・ホイットン博士(トロント大学医学部精神科主任教授)が、数多くの被験者に対する退行催眠から解明した調査結果を中心に、他の研究者たちの報告を交えながら、「生まれ変わり」の仕組みについて整理してみよう。

 

1.「あの世」への帰還

 (1)「魂」としての自覚

 ホイットン博士は、退行催眠を用いて、数多くの被験者から何千年にもわたる過去生の個人記録を調査しているうちに、ある重要な事実を発見した。それは、被験者たちが肉体に出たり入ったりして経験した過去の試練や成功、失敗などが、全て現在のその人物の人間形成に役立っているということである。各人の生まれ変わりの経歴をたどっていくと、一見それぞれの人生に全く脈絡がないように見えても、実は大きな理由があったのだと言うことが、必ず明らかになったという。ある人生での行動や態度が、現在あるいは将来の人生での、環境や挑戦目標を決定していたのである。

 ホイットン博士が、偶然に「中間生」(あの世)の存在を発見したのは、ポーラ・コンシディンという42歳の女性に退行催眠を行っているときであった。ポーラは、安定した気質の持ち主で、深い催眠に入ることができ、暮らし方や趣味、行動などもごく普通な、北アメリカの典型的な主婦であった。彼女は、ホイットン博士から通算100時間以上にのぼる退行催眠を受け、自分の長い転生の歴史を、理路整然と物語った。

 ポーラの口から語られた過去生をたどっていくと、古代エジプトの奴隷の娘として生きた時にまでさかのぼったが、ほとんどが女性としての人生であった。例えば、「テルマ」という名前の人生では、ジンギスカンの時代のモンゴルの族長の娘であったが、16歳の時に戦で殺された。また、1241年に34歳であった「オーガスタ・セシリア」という名前の人生では、一生のほとんどをスペイン国境近くのポルトガルの孤児院で過ごした尼僧であった。さらに、1707年に17歳であった「マーガレット・キャンベル」と言う名前の人生では、カナダのケベック市郊外に住み、のちの毛皮を商う猟師と結婚した。

 そして、ポーラが、1822年にアメリカのメリーランド州の農場で生まれ、若くして農家の階段から転落死した「マーサ・ペイン」という名の娘であった人生を回想しているときであった。ホイットン博士は、何気なく「あなたがマーサ・ペインとして生まれる前に戻ってください」と指示してみた。しかし、正しくは、「マーサ・ペインとして生まれる前の人物に戻ってください」と指示するべきであった。いわば「生まれる前に戻ってください」と、間違った指示を受けたポーラは、突然、こう語り始めたのである。

 「私は・・・・・空の・・・・・上にいます。農場の家や納屋が見え・・・・・朝早くて・・・・・太陽は昇り始めたばかり・・・・・。刈り取りを終えた畑は、真っ赤に・・・・・真っ赤に染まって・・・・長い影ができています・・・・。」

 ポーラが、空の上などにいるはずがない。すっかりうろたえた博士は、途方に暮れて、さらに尋ねてみた。

 「あなたは、空の上で何をしているのですか。」

 「私は・・・生まれるのを・・・待っています。母のすることを・・・見ているところです。」

 「お母さんは、どこにいるのですか。」

 「母は・・・・ポンプの所で・・・・バケツに水を入れています。とても、大変そう。」

 「なぜ、大変なのですか。」

 「私の身体の重みで・・・・おなかに気をつけてと母に言ってあげたい・・・・母体のためにも、私のためにも・・・・・。」

 「あなたの名前は?」

 「名前は・・・・・まだ、ありません・・・・・。」

 このように、自分が自分の上空に浮かんでいる記憶を持つ被験者は、前出のワイス博士による退行催眠実験においてもしばしば確認されているが、いわゆる「臨死体験」の研究でも頻繁に報告されている。例えば、ワシントン大学小児科助教授のメルヴィン・モース博士は、薬物の副作用で意識を失った女性の、次のような体験を報告している。

 「見おろすと、病院のベッドに横たわっている自分の姿が見えたんです。まわりでは、お医者さんや看護婦さんが忙しく働いていました。機械が運ばれてきて、ベッドの足元に置かれるのが見えました。箱みたいな形で、ハンドルが2つ突き出していました。牧師さんが入ってきて臨終の祈りを唱え始めました。私はベッドの足元に降りていって、劇の観客のように一部始終を見ていました。ベッドの足元の壁に、時計がかかっていました。私にはベッドに寝ている自分の姿も、時計もよく見えました。午前11時11分でした。その後、私は自分の身体に戻りました。目が覚めた時、ベッドの足元に自分が立っているんじゃないかと捜したのを覚えています。」

 また、ダラス市民病院の医長を勤めたラリー・ドッシー博士の確認によると、手術中の緊急事態で1分間ほど心臓が停止したサラという女性患者は、全身麻酔で意識を失っていたにもかかわらず、手術室の光景を確かに見ていたうえ、手術室から抜け出て他の部屋までさまよったという。心臓が停止したときの外科医と看護婦の緊迫したやりとり、手術台にかかっていたシーツの色、主任看護婦のヘアスタイル、各部屋の配置といった手術室内部のことのみならず、手術室外の廊下の手術予定表に書いてあった走り書きや、廊下の端にある医師控え室で手術が終わるのを待っていた外科医の名前、麻酔医が左右別々の靴下を履いていたというような些細なことまで、サラの証言はどれも正確なものであった。しかも、これらの情報は、例えサラに意識があったとしても、決して見えるはずのないものであった。なぜなら、サラには、生まれつき視力がなかったためである。

 なお、18種類もの学位を持つエリザベス・キューブラー=ロス博士の研究によると、過去10年以上も視力がなく目の見えない患者たちが、臨死体験中に、自分を見舞いに来た人々の洋服や宝石の色、セーターやネクタイの色や形までを確かに「見」て、正確に描写することが証明されている。

 さらに、エモリー大学心臓学教室助教授のマイケル・B・セイボム博士は、臨死状態で自分の身体の上空に浮かんで様々なものを見た患者たちについて調査し、「肉体から抜け出している間、本人の意識は、肉体ではなく『分離した自分』の中にあるのだが、完全に覚醒しており意識水準も高く、驚くほど思考が明晰になる。」と報告している。

 


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