軽米
タイトル
座談会
輝く大地に知恵を結集
 地域ぐるみで取り組む営農について農業青年は何を考え、何を望んでいるのでしょうか。町の未来を担い、農業の明日を築く若手実践家にこれからの地域を取り組んだ営農について話し合っていただきました。(司会は軽米地域農業改良普及センター所長の安藤誠さんです)

氏名 年齢 行政区 経営内容
安藤 誠 56歳 司会・軽米地域農業改良普及センター所長
上山 誠 24歳 路地野菜
上山トミ子 24歳 路地野菜
鶴飼一男 32歳 鶴飼 肉牛(繁殖)
寺澤教之 25歳 向高家 酪農
中里朋江 31歳 大町 葉タバコ
中里宣博 35歳 大町 葉タバコ
馬場孝悦 25歳 屋敷 水稲・野菜
日山隆之 32歳 車門 水稲・肉牛(繁殖)

4Hクラブが活動の原点
司会:今日は若い農業経営者がこれからの農村と農業をどう考えているのか集まっていただきました。皆さんは個別経営でがんばっていますが、今後は自分の土地と労働力のほかに地域とのつながりの中で進める必要があると思います。高齢化や担い手不足などの中にあって、地域全体でこれからの農業のあり方を考える時期になっています。まず、皆さんが農業を始めた動機や現在の取り組みを教えてください。
馬場:農家の長男だから跡を継いだ面もありますが、普通のサラリーマンは嫌でした。最初は父のいうとおりやっていたので、よく分からなかったのですが、自分で責任をもつようになり、奥の深さがわかってきました。天候に左右され、これでよいという上限もありませんが、やりがいもあります。屋敷集落のためにも将来も農業は守りたいです。
寺澤:乳牛は現在24頭で、育成14頭です。農業短大(北海道)では、農家に下宿して実習しました。獣医さんとのやりとりが面白く、家を継ぐことに決めました。理想と現実の差に苦しんだときもありましたが、今は乗り越えました。酪農の楽しさをみんなにPRしたいです。動物は目では絶対にうそをつかないのが好きです。
中里(宣):農業を継いだあたりは、仕事より4Hクラブの活動に生きがいを感じていました。自然に地域や仲間とのつながりもできました。農業が面白くなってきたのは、結婚して仕事の主導権を握るようになってからです。葉タバコはキロ代金とか数字で出るので明白です。同じ肥料設計でも天候次第で作柄は全く違います。今は価格が安定しているので、安心して投資できます。来年は二町歩に増やしたいです。

豊かなむらづくり農林水産大臣賞に輝いた
鶴飼地区の雨よけホウレンソウの収穫風景を視察する増田知事
(右端後方、9月5日)
ゼロから出発が新鮮
中里(朋):実家は農家ではなかったので、農業には何も知らないまま飛び込みました。育児の合間にタバコ植えから収穫まで一つひとつが勉強で、それがかえって新鮮でした。支える家族と地域の励ましがあれば、農業はゼロからでもスタートできると思います。
日山:最初は父の下で働いていましたが、オラにも何かやらせろ、と黒毛和牛を導入しました。牛舎を建てて、自分でみんなやっています。現在は乳牛は父の担当ですが、将来的には全部、黒毛和牛に切り替える予定です。
鶴飼:繁殖が20頭で、肥育が7頭です。前沢町などのように繁殖と肥育の一環経営を目指してます。農業の魅力は、努力次第でチャンスが広がることです。ポイントを押さえれば十分やれます。早くその要点をつかむことです。
上山(誠):高校卒業後、農機具店に就職しましたが、どうせなら早く取り組もうと思って結婚一年目に就農しました。野菜は価格の変動が激しく、豊作でも不作でも価格次第で収入が同じ場合もありますし、良くいえばスリリングですね。今後は品目をしぼった取り組みも考えています。
上山(ト):実家が農家なので、農業には違和感はありません。小さい頃から手伝いは楽しかったからです。育児で忙しい面はありますが、自分で責任を持って花卉に取り組んでみたいなあ、と考えています。
司会:かつて朝日農業賞を受賞したこともある車門地区には、今もゆい(無償の相互扶助)が残っていますよね。
日山:稲わらとたい肥の交換が有名です。田植えの後植えや葉タバコの移植の際もおかあさんグループがやってくれるので助かります。

地域ぐるみ農業について話し合う座談会出席者の皆さん(11月25日、県北農業研究所)
土地の集約化が規模拡大のカギ
司会:本年度、むらづくり全国表彰で農林水産大臣表彰に輝いた鶴飼地区はどうですか。
鶴飼:機械作業は青年達を中心とした作業班、ホウレン草はお年寄りや婦人というように集落全体で営農システムができています。年数とともに少しずつ連携先が変わってきており、今は同規模の農家間で行われることが多くなってきています。
司会:私は花巻出身で、水田のために昔は共同作業の「水路さらい」があったが、今はコンクリート水路。今は農業でも生活でも人のつながりがなくなったなあ、というのが現実です。
馬場:自分で畑を切り開き、規模拡大に取り組んでします。畑を貸すのでやってくれないかという話はあります。けれども、少ない面積をあちこちに借りても機械の移動に時間がかかり、メリットはありません。条件の良い所をヘクタール単位で貸してほしいですね。
寺澤:葉タバコの連作障害を防ぐために、頼まれてデントコーンや麦を植えてたことはあります。高家酪農生産組合も今は自分一人だけとなったので、地区を越えて小軽米の人と連携しています。

土地の等価交換を進め 集落栽培
司会:農林業センサスでも町の耕作放棄地は平成7年は132ヘクタールで、田畑の6%にも達しています。昭和60年の45ヘクタールから10年間で実に3倍以上です。個人経営だけでなく地域ぐるみで農業を考える時期になってきているのではないでしょうか。
鶴飼:受託生産は地域の分をまとめて一手に引き受けたいです。低コスト生産対策はとても助かる事業だったので、復活を望みます。
日山:年間を通じて動けるオペレータ(機械操作員)専門の組織を作ってはどうでしょうか。
鶴飼:土地の等価交換を進める必要もあります。貸す側も借りる側のことも考えて、旧道をなくすなとか注文を付けずに、全体の効率を考える方向で意識を変えてほしいです。農地改革が根底にあり、貸すと取られるという意識がまだあるのかなぁ。
日山:貸す側と借りる側の情報が分かるように整備してほしいです。土地の流動化の促進です。個人で探すのは限界がありますから、町で地域ごとにピックアップしてくれれば助かります。
上山(誠):長イモは表面の土でなく、使える黒土の層が地下何センチにあるかが勝負です。幸い町の使える土の層が深いですね。ゴボウ、長イモといった根ものには最適の産地です。
寺澤:高家の台地は水道も整備された五十町歩の面積を誇ります。集落栽培、団地化にはもってこいの条件です。町には広大に整備された農地が残されており、豊かな可能性を秘めています。
司会:最後にみなさんの夢やこれからの取り組みを聞かせてください。ゆとりと楽しみのある経営という点では、上山君にはマラソンがありますね。
上山(誠):月給制で農休日を設けています。農休日には大会にあてることが多いです。練習は親子4人別々の時間ですが、いつかホノルルマラソンを4人で完走するのが夢です。農業では野菜だけでなく、雑穀の産地とう優位性を生かしてアマランサスにも取り組みたいです。

加工を手掛け郷土食を伝承
上山(ト):普及センター主催のミセスアップセミナーに参加しています。郷土食の伝承や農産加工品開発に興味があるので、子育ての合間にコツコツ勉強したいです。町の花卉も有望だと思うので、ぜひ手掛けてみたいです。計画を持った仕事配分で、余暇は各自の趣味に使えば、たぶん地区の様子や農家の女性の感覚も変わると思います。
中里(宣):農家でサラリーマン並みの生活をしたいという声を聞いたこともありますが、もっと大きな夢を持たなくちゃ。オラどは大地を守るでっかい仕事をしているんだから、プロ野球の選手みたいに夢を売る職業になるべー。農業はやり方でなんぼでも稼げる職業です。
寺澤:オラは風を切って生きています。農業は風のにおいや季節のにおいを感じながら生きているすばらしい職業です。農業の良さをもっとPRしなきゃ・・・。地域の小学生が学校帰りに立ち寄れるような牧場づくりを進めたいです。
中里(朋):農業は土に触れ合うことのできる、子供を育てるには最高の環境です。地域営農は普段は意識したことはありませんが、車門方式や鶴飼方式のほかにもそれぞれの地域の条件に応じたシステムが考えられると思います。ミセスアップセミナーなど県北農業研究所(普及センター)には県北の多くの農業者が出入りしています。広域で連携してみんなでいい知恵を出し合いましょう。

農事会社をおこし社長になるぞ
馬場:実は新婚旅行から帰ってきたばかりなのですが、これからも年一回、家族で旅行できる家庭を目指したいなぁ。
日山:これは夢のまた夢なのですが、昔、畑を開墾したくて普及所へ土壌検査を頼みました。そうしたら結果は温泉の出る地質で、畑には向いていないということでした。結局、畑にしましたが、夢は温めています。温泉を掘り当てて、集落の人が農作業の後にドボンと入り、語り合える場を作りたいです。
中里(宣):農業は子供には継がせるなんて無理かなぁ、と思っていましたが、今ではサラリーマンよりずっといい職業だぞ、と勧めたいです。大きくなったら一緒に農業をやり、農事会社を作り、社長になるのが夢です。
司会:皆さんのやる気に安心しました。皆さんの取り組みや考え方を後輩にも指導して農業を継ぐ若い人達をどんどん増やしたいものですね。そのためにも地域住民との連携を深めた営農の仕組みづくりをこれから真剣に考えていくことが大切だと思われます。今日はどうもありがとうございました。これからも力を合わせてがんばりましょう。

年々需要の高まっている花卉。町では施設を利用したスプレー菊などの作付拡大を図っています。(山田地区) 「み」を使ってソバの選別作業を体験する小軽米小の児童たち(11月2日

まとめ 伝統と若い力でシステムを構築
 地域営農システムは、これからの農業振興のカギを握る言葉です。座談会に出席した皆さんのような地域の中心的農家を育成するには、大切な仕組みです。
 町では12月から地域ぐるみ農業のシステムを確立するため、町内に重点地区を設けて、相談会を開く予定です。よろしくご協力ください。
 鶴飼地区を参考にそれぞれの地域に応じた仕組みを考えていきます。そのためには、地域全体で農業を守るという町民一人ひとりの熱意と創意工夫が必要です。
 システムの考え方の基本は足元にあります。営々と続いてきた各地域での伝統を生かし、若い力を取り込んだ取り組みを加えることで、方向性が示されることでしょう。
 地域ぐるみ農業を生み出す話し合いで培われた力は、大きな流れとなり町づくりへとつながり、着実な実を結ぶことを私たちは願ってやみません。